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 迫りくる来春へのときめきと、ほんとうに何事もなく卒業できるのだろうかという不安、ジェットコースターみたいだと思っていたら、友人らもそう思っていたらしく、すこし救われた。いまの一番の祈りは、卒業して就職することかもしれない。(卒業確定のお知らせが3月はじめって遅すぎる)

 

 連日、大学生活の腕をつかむように、スケジュールの空白を埋めている。もう会うことはないかもしれない、糸をつなぐようにつきあわせる顔、からまりをほどくためにする連絡、まだ縫い目は続いていくのだとつなぎとめる言葉。冬がきわまっていたころよりも、やりとりをする相手がふえた。かわりめだから、と言い聞かせて連絡をする。いつか叶うかわからない約束を何個だってつくってやる。

 

 サークルのつてから、先輩が会社をやめること、後輩らが付き合いだしたこと、同期が留年をすることを知った。いびつだったけど、あの場に身をおいていて、やさしくされていたこともあったんだな、なんか変なの。

 

年始

 冬の凍てつくような夜、友人と電話をして帰った。男のひとが、魚をおろしてもってきてくれた、ひとつも骨がはいっていないまっさらな切れ身。二人で食べましょうと持ってきたお菓子は、たいしたものでも、ひとりで食べきれないものではなかった。友人は夢のなかから電話をかけている風情だった。

 

木曜日

 机上の空論、ランチテーブルにおかれるパスタ、オムライス、コーヒー、ケーキ、アップルパイ。GUやユニクロが、ニトリが安い理由にめをつむって買いものするみたく、たくさんの約束を軽やかにかわしていく。

 

金曜日

 本を三冊読む合間にケーキを焼いて、疲れたら本を読んで、もう一度ケーキを焼いて、本を読み終えた。焼いたケーキは、ほとんどひとりで食べてしまった。

 

火曜日

 ゆるふわな雰囲気とはうらはらにある、たしかで強いところが好きで友達でいたんだ。仕事を選んでしまうかも、だれかより自分のことを大切にしたいからと難なく答えた友人は、たやすく車を右にカーブさせていた。恋愛のはなしは数えるほどしかしたことがなくて、いつも人づてに噂をきく。そんなのでいいと思う。彼女にいま好きな人がいるかも、私のことも、なにもしらないまま、ケーキとコーヒーをたいらげて、ろくろで陶器をつくって、焼き菓子を買って帰った。口はつねに忙しくて、ずいぶんと喉がかわいてしまった。

 

水曜日 

 友人のまつげにみとれていたら、一日は終わった。同じ出身地で、となりの席に座ったから、苗字が一字違いだから、それだけのきっかけだけで、ここまで仲良くしてくれたことがうれしい。帰りのバス、この子のまつげはどうなっているんだろう、となりの席からぬすみみたのは、はじめて会った日も今日も変わらなかった。

 

 案の定バスは遅れていて、ぼうぜんと立ち尽くしていたら、女性に話しかけられた。政治の署名を集めているらしくて、今すぐに今日、ここに、名前を書いてほしいんです、と強くいった。ボールペンはつめたくて、文章に2回くらい目を通していたら、バスが来ますからと言い残して女はいってしまった。咀嚼できていない社会問題がやまほどある。ウクライナの緊迫状態、大型地震ハザードマップ、台湾の独立を求める声。それでも、わたしはわたしとして、卒業できるかどうかが気になってしまうんだった。もう春。わたしは春を好きなひととすごしたことがない。猫はうまく飼い主をみつけられるだろうか。