ネイルの色を落としても

 金曜の夜はビールを4杯、梅酒を3杯飲んだ。同期たちとわたしの間柄がすこしでも滑らかなものとなるように、ごまかすように、見栄を張るようにぐひぐび飲んだ。一次会で抜けて、同期のひとりと帰った。風が心地よいが、視界がすこしまわった。気持ち悪いとLINEをうってじきに横になった。

 土曜の朝は友だちへのLINEではじまった。3ヶ月ぶりに会う友人とわたしが再会した場所は、駅のお手洗いだった。森道市場の風は森道市場の風が吹いていて、ひどく特別で、満ち足りたものだった。視界のすみずみ、音のすみずみ、どこをどう切り取っても、どうあがいてもまばゆく圧倒的だった。サニーデイ、kirinji、helshinki、海、ビール、足のだるさでさえ気持ち良い。あまった時間は遊園地で過ごして、すこしでも帰る時間を先延ばしにした。おもちゃみたいなふざけた明かりにきらきらと照らされながら、22年生きた女ふたり、ジェットコースターに乗り、メリーゴーランドに乗った。フェス終わりのひとたちとそぞろに帰る。前の人の背中を視界にとどめながら、後ろの人の会話を耳にいれながら。なんか遠足みたいと言ったら、みんな友だちみたいなもんと彼女も笑ってた。

 日曜は1日熱くて参った。飽きることなく、朝食のパンを買い、これまた飽きることなく、公園で食べた。事前に行きたいとリストにあげてたお店にはほとんど行かなくて、ベンチで休憩してなにも話さなかったり、目を引く看板の家具屋さんに入ったり、わざわざバスを乗り継いでオムライスを食べたりした。ふたりとも知らない、特別なテーマパークがあるわけでもないのに、すごくたのしかった。わたしが知らない町でも、人びとはふつうに楽しく生活を営んでいて、植物も青々としていて、公園で子どもはのびやかに遊んでいる。不思議だし、ちょっと悲しいけど、別にわたしがいなくても世界って大丈夫、当たり前だけれど安心した。

 友人とは友人としか摂取できない居心地のよさとかときめきがあるね。君の感じの良さと気遣いは天下一品だ。4月からずっと会社にいる自分と恋人といる自分がはりついていたから、なんだかよかった。メイクも服装だってちょっと違う。わたしだって友だちといるとき、こんなに伸びやかに笑えるんだよね。別れ際、なんか寂しいかもというから、わたしは寂しさよりも嬉しさが勝った。

 また来年も森道市場にいこうね、と友人の口から出てきたから良い日だ。明日のためにまたネイルを落とさなくちゃならない。それでも心に小さな反抗心と雑なかわいさとのびやかな休日のことを残して生活していく。ネイルがなくたってわたしはちょっとだけ強くなれたはずだ。アルコールの力はまだ借りるかもしれないけれど。

 

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